第1章 だれもしらない
教室の喧騒をどこか遠くに聞きながら、机に頬杖をついて空を見上げる。
少し目のピントをずらせば、夏のくっきりと濃い青空に、滾々と湧く水面の輝きみたいな、小さな光の粒が現れた。
これが私のとっておき。
ブルーフィールド内視現象、なんていう名前を知ったのは、つい最近のことだ。
青い視界を忙しなく泳ぎ回って、そこかしこをイルミネーションみたいに彩る光の正体は、現象の名前が分かると同時に、自分の血管の中の白血球だと発覚した。
そんな味気ない結果が出ても、世界中が一気にきらきらし始めるこの現象は、小さい頃からとっても好きだった。
私にしか見えないから、誰に言っても信じてもらえなくて、昔は妖精的な何かかと思っていたけれど、それはまあ、笑い話ってことで、心にしまっておこう。
予鈴が鳴って、青空から教室に目を移せば、ほどなくして光の粒は掻き消えていった。
授業の準備に教科書を引っ張りだすクラスメイトを眺める。
多分、みんなは知らない。さっきまで窓の外が、すごく光っていたことも、私がそんな景色を見ていたことも。
あ、そっか、知らないのか。
やっぱり、誰かに「とっておき」を教えるのはやめにしようかな、なんて思えてきて、なぜか頬が緩んだ。
「私だけが知っている」っていうのも、まあ悪くない気がしてきたから。
多少ほかの人とずれてるから、見つけられる物もあったわけだし。
そんなことを考えながら、黒板を見据えて、ピントをずらす。
先生の姿や板書がぼやけて、教室に光の粒がぶわりと溢れ出した。