第1章 novel.1 丸井ブン太の家庭教師
「別荘!?」
「そ。俺の友達と。あいうも行こうぜ」
真夏の暑い日、中学生は夏休み中。
家庭教師をつけるか塾へ行くかの勉強詰めの中学生にとって、別荘での息抜きは現実逃避にも思える。
「親なしで別荘?小生意気にも別荘?」
甘ったるい風船ガムを膨らませながらペンを回す赤髪の子は私の教え子ブン太。
「ブン太の友達って金持ちなんだね。むかつく。」
「親が金持ちなだけだろぃ?なあ、頼むよあいう!!」
頭を下げ拝むようにお願いする生意気なクソガキ
「先生って言えよ。お願いしますあいう先生って言ったら付いていってもいいよ」
「…お願いしますあいう・・先生」
嫌気な顔した棒読みの可愛くないお願いにブン太のほっぺたをつねりながらも、もう心は決まっていた。
別荘も行ってみたいし、旅行なんて久しぶりだし。
「よし、行ってやるか」
中学生2人と、保護者代わり1人の3人で別荘に旅行が決まった。
どちらの親も私が一緒との事で快く了解してくれた。
「暑い。電車嫌いだ。ブン太なんとかして」
揺れる電車の中、人であふれる灼熱列車。
ローカルすぎて冷房が効いてないのに今日はなぜか混んでいた。
「我慢しろよ。あいうが潰されないようにするのが精一杯だっつーの」
私を気遣ってなのか、ブン太が群がる人ごみから壁になって私が潰れないようにしてくれてる。
それでも人は入れ替わり立ち代り押し込まれ、ついに壁代わりのブン太までもが私を潰しにかかってきた。
「むぎー」
「変な声出すなよ。潰れたカエルか」
列車がカーブに差し掛かり、私は窓にへばりくっついてしまった。窓が少し曇って私の顔拓が出来た。
「おもしろいね」
普段電車に乗らないからこんな些細なことも楽しくなってきて、私は体ごとブン太の方へ向き直した。