第14章 私の彼は 【高杉晋作】
予定の小間物屋は、高杉さんが泊まっている宿とは遠くはない。
(小間物屋に寄ってから行こうかな)
そんなことを考えて、京の道を歩く。
現代と比べて、道路はアスファルトじゃないため陽の照り返しは強くはない。
だけど、それでも暑いことには変わりなくて。
私の体力をどんどん奪い、辛くなってくる。
やっとの思いで小間物屋に着くと、菖蒲さんと夕霧太夫の分の簪を数個買う。
秋斉さんからもらったお駄賃は懐に入れて、何も買わずに店の外へ出る。
(暑い…)
容赦無く陽は照っている。
数分歩くと、見慣れた赤い着流しを見つけた。
…高杉さんの泊まっている宿とは方角が違うところから歩いてきてる。
暑すぎて、幻覚が見えたのかもしれない。
赤い着流しの本人は、私に気がつくとこちらへ歩いてきた。
いつものように不敵な笑みを浮かべると、私に向かって話しかけてきた。
「よう、艶子。この前はすまなかったな」
高杉さんが謝ってる…
やっぱり、幻覚と幻聴なのかもしれない。
この前の風邪のことを指してるのだろうか。
風邪、治ったみたいでよかった…
そんなことを考えた瞬間、
私の視界がぐにゃりと歪む。
私の足には力が入らなくなり、何も考えられなくなる。
「高杉さ…あ、れ…」
最後に見たのは、今までにないくらい驚いた高杉さんの顔だった。