第13章 夏祭りと 【古高俊太郎】
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「しゅ…ま、枡屋さん、お待たせしました」
今日は公の場で俊太郎様とは呼べない。
昔は枡屋さん、なんて言えてたのに、今ではすこし照れくさい。
「大丈夫や、あんさんを待つ時間はわてにとって幸せな時間や」
その言葉に私は微笑んだ。
島原の大門を抜けて、見えてきたのは色とりどりの明るい色たち。
「夏祭りは久々やな…人が仰山おる」
俊太郎様は、あたりを眩しそうに目を細めた。
「そうですね…」
沢山の人たちが行き交っていた。
夏祭りはこの時代にきてから2回目だけれど、現代と変わらず賑やかさは凄かった。
「的屋でもやるか?」
「矢取り女と一晩共にしてみてえなぁ」
まわりからはそんな会話が聞こえてくる。
「迷子になったらあかんよ」
「なっ…!」
そう言って、クスクス笑う俊太郎様は、ある方向を見て足を止めた。
「…綺麗やなあ」
目に留めた先にあるのは…矢取り女。
私の頭は思考停止した。
頭にあるのは…何故?の一言に尽きた。
(もしかしたら、俊太郎様も矢取り女の方がいいのかな)
そう思ったら、涙が滲んでくる。
手は繋いでなかったので、私は気配を殺して俊太郎様から離れようとした。
「…?どこに行くんや、艶子はん」
…暴露てしまった。