第13章 夏祭りと 【古高俊太郎】
俊太郎様に腕を掴まれて、恐る恐る振り返る。
俊太郎様は目を見開くと、慌てたように、
「どないしたんや、艶子はん?!」
心配そうに顔を覗き込んだ。
「な、なんでもないです」
「何もなくあらへんやろ、その顔は。何があったか言うてみい」
「…………ったから」
「……?」
「しゅ…枡屋さんが、矢取り女の方がいいのかと思いました」
「…は?」
俊太郎様らしくない、間抜けな声をだした。
「だ、だって矢取り女の方を向いて、綺麗だって…」
「……何を言ってるんや、艶子はん…」
思わず、顔が下を向く。
「わては、景品のことを言ってたんや」
「……へ?」
間抜けな声を出すのは、私の番になる。
「あそこの簪、とても綺麗やろ?いい質をしてる。艶子はんの衣にも、とても合うと思うて」
「そうだったんですか…」
真実を聞いて安堵した私は、俊太郎様に抱きついた。
「今日は何故か大胆やなあ」
そう言って笑う俊太郎様に、私は顔を真っ赤にした。
道のど真ん中なのに……
「わてはあんさんがこの世の中で一つだけの大切な人や。…せや、わては的屋で簪をとってきてあげまひょ」
そう言って俊太郎様は、私の手をつないだ。
END