第12章 夏祭りと 【高杉晋作】
「煩いっ、抵抗するな!!」
怒鳴られて、体がびくりと震える。
手には縄が縛られていた。
着物の中を弄り回る手が気持ち悪かった。
首を嫌々と横に降り、涙をずっと流していた。
「…うぅっ…も…やだっ…高杉、さ……」
橘田さんの、掴んでいた手にさらに力がこもる。
私は無意識に、高杉さんの名前を呼んでいた。
「ほう、俺の女に手を出すとはいい度胸してるな」
待っていた、声が聞こえた気がする。
「…艶子は俺のだ」
そのとき、また涙が零れた。
橘田さんはその声に気づき、ハッと振り返る。
仁王立ちで、私たちの前に腕を組んで立つ姿に、私は涙が止まらなかった。
高杉さんは私の上にのしかかっていた橘田さんの首元を掴むと、無理やり立たせた。
「流石に、艶子の前でお前を斬るのは気が引けるからな…一発殴っておくか?」
高杉さんは首元の手をそのままに、不敵な笑みでにやりと笑う。
「き、斬るなどお前に出来ぬだろう!!」
そう言って橘田さんは柄に手をかけようとする。
だけど、高杉さんの一声に手が止まる。
「お前にはこれが見えないのか?」
高杉さんの手には三味線から引き抜いた刀。
「…ひっ」
怯えた声を出す橘田さんは、怖気付いて刀を出そうとする手が震えていた。
「艶子の前では斬らない。だから殴らせてもらうぞ」
そういうと、高杉さんは素早く刀をしまって橘田さんの鳩尾に拳を入れた。
「ぐはっ…」
「あと一発殴らせてもらうぞ」
最後は顔面に思い切り殴った。
…高杉さんの、本気になるところは久々に見た。
昔、私が長州の方たちに襲われたときだった。
そのときも、高杉さんが助けてくれた。
橘田さんは、よろめいて立ち上がって、そそくさと帰っていった。