第12章 夏祭りと 【高杉晋作】
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「…あれ、はぐれちゃったかな…」
私は、お団子を買って戻ると、花里ちゃんと橘田さんを見失ってしまっていた。
「どこ行っちゃったんだろう…」
一人だと徐々に不安になってくる。
2人を探し歩いているうちに、お祭りの賑わっている方から少し外れてしまっていた。
慣れない場所で迷子になるのは、不安で怖かった。
そのとき、
「こんなとこにおったんか、艶子はん」
橘田さんの声がして、振り返る。
「橘田さん…!」
「花里はんが、あちらの方で待ってると言ってはるんや、急いで行こう」
橘田さんは私の腕を掴み、お祭りのさらに外れの方へ歩き出す。
そのとき、私はとても油断していた。
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「本当に、こっちに花里ちゃんが待ってるんですか?」
お祭りの賑わいが、本の微かに遠くに聞こえるくらいのところまで、私たちはきていた。
「…艶子はん、あんさんはほんまに綺麗や」
「…え?」
急にわけのわからないことを言われて、驚く。
「あんさんを、わてだけのモノにしたいんや」
そこで、私は初めて気づいた。
ここにも、この先にも花里ちゃんはいない。
ただ、この人の狂っているような気がした。
「…や、やだ……」
あたりは山のようなところで、人影なんて全くない。
橘田さんの目は、もう優しい瞳なんかじゃなくて、私を映していなかった。
両手首を思い切り掴まれ、身動きがとれなくなる。
そのままドサリと地面に倒される。
「いやっ…!」
いくら抵抗しても、男の人の力には全く敵わなくて。
私はぽろぽろと涙をこぼしていた。