第12章 夏祭りと 【高杉晋作】
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「なあ艶子はん、あれ高杉はんちゃう?」
そう言われて、ハッと顔をあげる。
…私は花里ちゃんと、あと菖蒲さんの名代でいつも優しくしてもらっている橘田さんと一緒だった。
橘田さんは、私たちがいつも訪れている橘田屋と呼ばれる茶屋の長男坊らしい。
橘田屋はとても人気で、置屋の子達も何度も其処へ通っている。
「ほら、あの赤い着流し。高杉はんの後姿によう似てはるなあ」
私には見えなかったけれど、花里ちゃん曰く高杉さんに似ている人が遠くにチラリと見えたらしい。
「…京にいるわけないよ。だって昨日のうちに高杉さんは京を出たからね」
「へえ、そうなんや…あ、橘田はん放っといてしもた…すんまへん…」
「わては大丈夫や。それにしても艶子はんにご贔屓の旦那はんが居らっしゃるとは…嫉妬してしもうた」
そう言って笑う橘田さんは、とても優しかった。
好青年って感じだし、とても私を気にかけてくれる。
「橘田はん、艶子はんに惚れてるやろ?」
「かなわんわ…暴露てしもうた」
そう言って3人で笑った。
だけど、楽しい時間の終わりはすぐ其処まで迫っていた。