第10章 夏祭りと 【結城翔太】
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「すいませーん」
お昼頃になって、入り口から聞き慣れた声が聞こえてきた。
私は、慌てて自室から出て、階下にある玄関に走って向かった。
「翔太くん!!」
廊下を少し走った先に、見慣れた姿が見えた。
「艶子!走ったら危ないだろ?」
父親のように注意する翔太くんに、少しだけ舌を出した。
「全く…そうだ、今少しだけ時間あるか?」
「?うん、あるけど、どうしたの?」
翔太くんは、額に浮かんだ汗を拭うと、置屋前にある椅子に腰掛けた。
(走ってきてくれたみたい)
汗と、少しだけ切れた息でわかった。
「今日さ、体門を越えた少し先で、大きな花火大会があるみたいなんだ」
翔太くんは目元を下げて言った。
「花火大会…?」
「そう、懐かしいだろ?花火大会なんて。屋台とかも出るらしいんだ」
元のいた時代の、お祭りを思い出す。
「夏祭りかあ…!いいなあ…」
「そこで艶子、一緒に行かないか?」
「一緒に?……って、え!?」
「だ、駄目だったか?」
子犬のように、少しシュンとなった翔太くん。
「い、いやそうじゃなくって!!…今日仕事が…」
「仕事なら、他の新造に任せたらええ。今日は休みをあげるさかい」
急な声に振り向くと、秋斉さんが微笑んでいた。
「秋斉さん…いいんですか?」
「今日だけや」
「ありがとうございます!翔太くん、楽しみだね!!」
私は翔太くんに向かって微笑んだ。