第10章 夏祭りと 【結城翔太】
艶子視点
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よく晴れた、夏のある日の朝。
私は置屋の外で箒をはいていた。
「あっつー…」
額から滴る汗が暑さをより感じさせる。
こんな日はアイスが食べたくなる。
だけど、この時代にはそんなものないわけで。
そんな自分を奮い立たせるために、振袖を肩まで引き上げる。
「朝からほんにご苦労さん」
そんな、涼しげな声が背後から聞こえてきた。
「秋斉さん!おはようございます」
私ははいていた箒を止め、秋斉さんに振り返った。
「えらいこと汗かいてはりますな…暑かったやろ?もうこのへんで終いにしたらええ」
汗のことを軽く笑われ、少し恥ずかしくなる。
何故秋斉さんは全く汗をかいてないの…?
「わかりました、箒を片付けてきますね!」
そういって、足早に去ろうとしたとき、
「あ、そうや艶子はん」
…引き止められた。
恐る恐る振り返ると、秋斉さんはにやりと笑う。
「先程番頭はんに言われたんやけど、結城はんが昼時に置屋を訪ねてくるそうや」
「えっ、翔太くんが?」
翔太くんの名前が出てきて、過剰に反応してしまった。
「そや、なんでも急ぎの用らしくてな…逢引やったらええね」
秋斉さんはそんな私を横目に、からかった。
「あ、逢引なんて…!し、失礼します!!」
私は慌てて箒を片付けに行った。