第9章 別れ 【徳川慶喜】
兵は、怒りで震えていた。
やはり、城へ戻ると殺されかねない。
でも、俺はここで殺された方がいいのかもしれない。
兵は血走った目をして、震える手で刀を引き抜いて…
俺たちに向かって走り出した。
そのときだった。
「いやっ!!慶喜さん!!」
そう言って俺の前に飛び出してきたのは艶子だった。
こいつだけは、何が何でも守らなくては。
俺は、庇おうと前に出た艶子の手を思い切り引っ張り、腕の中に閉じ込め、兵に背を向けた。
その直後、短い呻き声があたりに響く。
本当に、一瞬の出来事だった。
「嫌……慶喜さんっ!!」
艶子は叫ぶが、俺は無傷だった。
「俺は大丈夫だ」
「…!?…まさか…」
艶子と俺が振り返ると、秋斉が俺たちを庇うように前に出ていた。
「…無事か」
そう、柔らかく微笑んだのは、間違いなく秋斉で。
「秋斉!?!?」
秋斉の着物は、血でぐっしょりと濡れていた。