第9章 別れ 【徳川慶喜】
慶喜視点
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「さっき言ったのは全部嘘だよ」
目の前にいる秋斉が淡々と言う。
俺の頭の中は、混乱していた。
俺たちは、フランスの公使に力を借りるために港まできていたはずだった。
「あれ、アメリカの人じゃないんですか?」
この、艶子の一言で、秋斉の秘策が明るみに出た。
つまり、間者がいたということも、信頼出来る人がいることも、全てが嘘だと、言いたいのか…?
「お前は船に乗って、江戸に帰るんだ」
そう言われたときに、俺は初めて気づいた。
ああ、騙されたんだと。
「なっ…!京に沢山の兵を残して!?」
兵を見捨てて、
将軍という役でありながら、
仲間を捨てて、俺だけ逃げろと言いたいのか。
「そんなこと…!!」
「江戸に帰れ」
秋斉は無表情で言い放つ。
隣で聞いている艶子は青い顔をして俺らを見つめている。
「…城に帰る」
「きっと今頃、兵士たちは激昂しているぞ。お前が城に帰ったとしても、怒り狂った兵士たちに殺されるだけだ」
そう、温度のない声で言い放つ。
そのときだった。
「…今の話、本当ですか…」
草むらから現れたのは、幕府軍の兵だった。