第4章 服
気を取り直して光秀は潤を座らせ腹部の傷口に綺麗な白布を当て、血止め草というその名の通り血を止める作用のある薬草で止血をする。
止血の後は針に細い糸を通し、手早く腹部の穴を塞いでいく。
『へぇ~、上手いもんだな』
光秀「昔から…戦で兵が傷を負って帰ってきてはこうして手当てをしていたからな…」
そう言うと何故か光秀は手を止め、自傷気味に呟く。
光秀「わしは昔から身体が弱くてな…この様な事ぐらいしか出来なかったのだ。わしは…織田の嫡男として、皆に何一つしてやれなかった…」
光秀の目はどこか悲し気で、目線は傷口に向いている筈なのに、何処か遠くを見ている様だった。
『それは違うぞ』
光秀「え?」
その言葉に顔を上げると、潤はさっきまでの子供の様な無邪気な顔から一転、母の様な柔らかい微笑みを浮かべ此方を見下ろしている。
『確かにお前は身体が弱いかもしれない。けど、その頃のお前はお前なりにみんなの為に何かしようとしてたわけだろ?若君自ら傷付いた奴を手当てするとか普通ねーぞ?現在だって織田の為にわざわざ明智家から戻ってきて、こうしてサブロー…信長を助けてるじゃねーか?いや、あいつだけじゃねぇ…みんなお前に助けられてる。恒ちゃん言ってたぜ?「明智殿が居てくれて心強い」って…。昔の信長について訊いてみた時も「今の殿も尊敬しておりますが、昔の穏やかな殿もお慕いしておりました」って…』
潤は光秀の頭を頭巾越しに優しく撫でる。