第5章 -彼女-(若松孝輔)
「ちゃんと乗ったか?」
「うん!大丈夫!」
「絶対手放すんじゃねーぞ?
しっかり捕まっとけよ?」
「うん。はなさない。」
ギュッ…とさらにすみれが力を入れ、
オレの背中にくっついてきた。
すみれは横向きで後ろに乗ってるが、
それでも背中にすみれを感じた。
危ないから放すなっつったけど、
それはそれで恥ずかしい…。
「い、行くぞ!」
オレは自転車を漕ぎ出した。
風が気持ちよかった。
「孝ちゃーーん!」
「なんだよっ?」
後ろからすみれが話しかけてくる。
「なんか中学の時みたいだねー!」
「…っ⁈なんでだよ?」
「中学の時、よくこうやって
一緒に帰ったじゃん。」
「そうだな。」
すみれが桐皇に決まったときは、
正直高校は一緒はムリだなって思った。
桐皇は偏差値高いから、
オレの頭じゃ到底ムリだった。
でも、オレの入る少し前くらいから、
桐皇はスポーツにも力を入れ出し、
オレはバスケ推薦で桐皇に入った。
スカウトされたときは夢かと思った。
バスケ強ぇし、試験無しだし、
なによりすみれがいた。
他にもいくつかスカウトされたが、
オレは迷わず桐皇に決めた。
「孝ちゃんと一緒に帰るの…
好きだなー。」
キキッ〜ッ‼︎
「きゃっ。孝ちゃん⁈どうしたの⁈」
オレはビックリしてブレーキを止め、
後ろを振り返った。
「すみれ…好きって…⁈」
「え?うん。
孝ちゃんと一緒に帰るの好きだよ?」
「はぁ⁈」
気が抜けた。
”孝ちゃんと一緒に帰るの”…が、
聞こえてなかった。
「変な孝ちゃん。」
すみれはきょとんとしながら、
オレの後ろで笑っていた。
そりゃ、おまえといたら、変になるわ。