第5章 -彼女-(若松孝輔)
「孝ちゃん!お疲れさま♪」
すみれが体育館の前で待っていた。
「おう。着替えてくるわ。」
オレは急いで部室に戻って汗を拭き、
制汗スプレーをして汗の匂いを消した。
「なんや、若松、
えらい気合い入っとるやんか?」
「なっ…⁈別にいつも通りっすよ。
気合とかじゃ…」
「ふ〜ん。」
「お…お疲れっした。」
今吉さんの視線に耐えられず、
オレは急いで部室を出た。
汗臭くないよな…大丈夫だよな…
今吉さんのせいで、
ちゃんとできなかった気がする…。
「わりぃな。待ったか?」
「ううん。大丈夫だよ。
あ、孝ちゃん、ボタンずれてるよ?」
すみれは笑いながら、
オレの胸元に手を伸ばしてきた。
「お…おいっ。自分でやるって!」
「はい!でーきたっ。」
オレのことばを無視して、
すみれはボタンを直した。
「…ったく。ほら、行くぞ?」
オレは礼も言えず、
すみれの荷物を奪って、
自転車置き場に向かった。
・・・・・・・・・・・・・・
「今吉〜。」
「なんや〜?諏佐〜?」
「あんま若松のことイジメんなよ〜」
「イジメ〜?なんのことや?」
「お前、若松の前だと
わざと檜原にからむだろ?」
「ん〜?まぁ偶然や偶然…♪」
「その目が怪しいんだって。」
「イジメられてんのはこっちやで…」
「ん?なんか言ったか?」
「なんも言ってへんで?
若松も難儀なやっちゃからなぁ。」
オレが部室を出たあとの
今吉さんと諏佐さんの会話…
オレは今吉さんは
本当はすみれのこと…
好きなんじゃないかと思う…。