第5章 -彼女-(若松孝輔)
「えぇやんかぁ。どうせ暇やろ?」
「うわぁ〜。なにそれ〜?
文化部に対しての偏見〜⁈
前の日直のときも
全部わたしに押し付けたじゃん‼︎
それに、次のときは
今吉がやるって言ったもん!」
体育館に似合わない女…
すみれが体育館にいた。
すみれはかなりの運動音痴だ。
走るのも遅いし、
ドッジボールはわざと
当たりに行ってるのか⁈って
ツッコみたくなるくらいすぐ当たる。
そんなすみれは中学のときから、
華道部に入っていた。
華道なんてまったくわからないが、
すみれが生けた花を見るのは好きだ。
だが、黙っていればともかく、
普段のすみれからは
華道なんて想像がつかない。
うるさいというか…口がたつ。
「とーにーかーくっ‼︎
今回は日誌くらい書いて!
書くまで今吉は部活禁止〜♪」
「うわっ…おいっ。何すんねん⁈」
すみれがいきなり
今吉さんのメガネを取った。
すみれはステージの隅に座っていて、
今吉さんはその下に立っていた。
そうなると身長差も関係ない。
「メガネなきゃ部活できないでしょ?
諏佐くーん!
今吉抜きで部活始めてていいよ〜♪」
すみれは今吉さんのメガネをかけて
遊びながら諏佐さんに言った。
「今吉〜さっさと書けよ…。」
「わーった、わーった。降参や。
おりこうさんやから、メガネ返しぃ?」
「今日だけじゃないよ?
1週間、日誌は今吉ね♪」
すみれはちゃっかりそう言うと、
今吉さんにメガネをかけた。
「ったく。かなわんわ〜。」
文句を言いながらも、
今吉さんはすみれとの会話を
楽しんでいるようだった。
「今吉、メガネしてたほうがいい♪」
「どういう意味や?」
「そういう意味〜♪」
「なんやそれ?」
ペチン!
「いった〜っ。孝ちゃん⁈」
「だーかーらっ‼︎
いい加減、その孝ちゃんて
やめろっつってんだろうが。」
「孝ちゃんは孝ちゃんだもん。
てゆぅか、なんで殴るのー?痛い!」
「部活始めらんねーじゃん。」
殴ったのは話すキッカケが
ほしかったというか…
これ以上今吉さんと話してるトコを
見ていたくなかった。