第31章 -電車-(青峰大輝)[前編]
-青峰side-
”帰ろうか”
そんなふうに誰かに言われたのは
いつぶりだろうか。
さつきは相変わらずだが、
さつきは別枠っつぅか…。
思わず「は⁈」と聞き返したら、
女は拗ねやがった。
こっちだってイロイロあんだよ…。
しかも、さらに進もうとするし…。
マジで温泉行く気かよ?
…まぁ、見てみたい気もすっけど。
ま、それはおいといて、
結局一緒に帰ることになり、
その女と反対側のホームに向かった。
「うわぁ…もう各停しかないね。」
ここまで乗ってきた電車も
各停だったから、
今はもうけっこう
いい時間になっていた。
とりあえず停まってた電車に乗る。
さっきと同じ3人掛けの席。
隣に座るその女は、
やっぱり小さかった。
「でも、なんだか旅行気分だね♪」
もう真っ暗で、
外もあんまり見えねーのに、
女はキョロキョロ窓の外を見ていた。
「なんでだよ?」
「だってこれから2時間もかかるんだよ?
ちょっとした小旅行でしょ。」
さっきまで拗ねてたのがウソのように、
女は笑顔でオレに言う。
珍しいヤツ…。
「ね!名前なんて言うの?」
「ぁん⁈なんでだよ?」
「2時間も一緒なのに、
名前わかんなきゃ話しづらいもん。」
「はぁ⁈おまえ、
2時間も話し続ける気かよ?」
オレが思わず呆れたように言うと、
その女も呆れたように
オレに言い返してくる。
「えー⁈まだ寝るつもり⁈
さっきあんなに寝たから、
わたし、ぜんぜん眠くないんだもん。
あ、わたしね、檜原すみれ。
桜川女子の1年。」
「ふーん。」
檜原すみれは勝手に話し始めた。
「で?」
「あん?」
「だからー!名前!」
はぁ…だりぃ…。
「青峰」
「…⁈青峰…?」
…?不思議そうに
すみれはオレを見上げてきた。
「あぁ…。」
下の名前も…ってことかよ。
「……大輝!青峰大輝!
桐皇学園1年!コレでいいかよ⁈」
はぁ…なんかさっきから、
こいつといると調子狂うな…。