第25章 -純潔-(灰崎祥吾)★
電話を切り、振り返ると、
あいつは無防備にソファで寝ていた。
…変わんねぇな。
うっすら化粧をしているようだったが、
すみれの寝顔は、
ガキの頃と何も変わらない。
ソファの下に座り、
すみれの寝顔を眺め、
すみれの頭を撫でながら、
オレはガキの頃のコトを
思い出していた。
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『しょーごくん!しょーごくん!』
『なんだよ?すみれー。』
『見て見てー!
おとうさんがくれたの!
すみれのお花っ!』
すみれの手には
白い花の小さな花束があった。
『なんだ、それ?』
『あのね、すみれのお名前のお花!』
すみれは嬉しそうに花束を眺め、
花束の匂いをかいでいた。
『ふーん。』
『すみれのお名前は
このお花からもらったんだって。
はなことばっていうのー。』
『へぇ。で、なんて意味だよ?』
『んー?
なんか難しくて忘れちゃった。』
『なんだよ、それー。』
『えっとねー、
あ!”小さな幸せ”とかー!
そういうの!
でも、すみれのお花は、
これと同じ白いお花なんだってー。』
すみれはまた自分の手の中の
花束を見ていたと思ったら、
おもむろに花束を二つに分けた。
『おい!何やってんだ⁈』
『はい!祥吾くんに半分あげる!』
『は⁈花なんていらねーよ!』
『いーのー!すみれは祥吾くんと
幸せになりたいんだもん。』
『な…っ⁈』
『すみれは祥吾くんがスキだから、
祥吾くんと幸せになりたいのー。』
『お…おう。…わかったよ。
すみれの名前通りにしてやるよ!』
『ほんと⁈やったー!
すみれのお名前と同じだよね!
祥吾くん、だいすきー!』
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ガキの頃からいつもチョロチョロ
オレのあとをついてきていたすみれ。
中学に入ってオレが荒れてっても、
女遊びを覚えても、
あいつはオレから離れなかった。
でも、ある時…
無料通話アプリのすみれの画像を見て、
ふと名前の話を思い出し、
オレは何気なく
”すみれ”の花言葉を調べた。
もちろん白いすみれの花…
意味は…
”あどけない恋”
”無邪気な恋”
”純潔”
オレはすみれの願いは叶えてやれない。
その時オレはそう悟った。
たかがそれだけ…とも思うが、
オレには…ムリだ。