第2章 -百合-(氷室辰也)★
-氷室side-
「来週、秋田東と練習試合だ。
まぁ、どちらかといえば
ウチは胸を貸す側だが、
ウィンターカップで
ウチが1番点を取れなかったのは
秋田東だからな。
練習試合とはいえ気を抜くな。」
「「はいっ‼︎」」
監督のことばに、
オレはもちろんやる気が出たが、
それだけではなかった。
ゆりなに会えるな…。
こうも簡単に実現するとは
思っていなかった。
試合当日…
試合会場はウチだった。
「よろしくお願いしますっ。」
全員で挨拶して体育館に入ってきた
秋田東の部員の中には、
もちろんゆりなもいて、
一緒に挨拶していた。
「ゆりな。久しぶりだね。」
「あ…辰也くん。」
オレが声を掛けると、
ゆりなは手を止め、オレを見上げたが、
心なしか顔色が悪いし、
ボーッとしている気がする。
「あ、この間は本当にありがとう。」
ゆりなは丁寧におじぎをした。
「どういたしまして。
あれから無茶なことはしてない?」
「し、してないよー。」
「まぁ、今となっては
あのサラリーマンのおかげで
ゆりなに出会えたんだから、
ある意味感謝しないとね。」
「…⁈」
「ゆりな、具合悪いの?
なんだか顔色悪い気がするけど…」
オレはゆりなの頬に触れる。
「え…⁈あ…っ。大丈夫だよ。」
「霧島。何してるんだ?」
秋田東の大柄な男が間に入ってきた。
「香山先輩!
あの…この間助けてもらったんです。
陽泉の…氷室辰也さん。
この間仲村先生のトコ行って
香山先輩と別れてから、
サラリーマンに絡まれちゃって…。」
「は⁈聞いてねーぞ。
絡まれたってどーせお前が
なんか言ったんだろ?
すまない。
ウチの霧島が世話になって…。」
”ウチの”霧島と言ったが、
”オレの”と言っているように聞こえた。
「あ、辰也くん。
こちら、ウチのセンターで…」
「香山弘樹です。
キミとは初めてだが…
今日はお手柔らかに頼むよ。」
香山はゆりなの紹介を遮り、
自分で名前を言ってきた。
「氷室辰也です。
こちらこそ。
試合楽しみにしています。」
オレはいろんな意味で
負けられないと思った。