第12章 -兄弟-(宮地裕也)
すみれはそのまま
本当に帰ってしまった。
「あぁっ‼︎なんなんだよっ‼︎」
オレはクッションを投げて
八つ当たりをしてしまった。
「あれ?すみれ帰ったのか?」
気づいたらオレは寝ていたらしく、
兄キが帰ってきていた。
「…あぁ。」
ついふてくされてしまう。
「せっかくすみれの好きな
プリン買ってきたのに。」
兄キは残念そうにプリンを
冷蔵庫に閉まった。
「またお前がなんか言ったんだろ?
少しはすみれに優しくしてやれよ?」
「は⁈兄キには関係ねーだろ。
つか、兄キが優しくしてやってんだから
いいんじゃねぇの?」
「オレじゃ足りねーんだよ。」
兄キは笑いながら言う。
意味わかんねぇ。
「すみれ、なんで帰ったんだよ?」
「別に…また”壁ドンして”とか…
くだらねぇ話だよ。」
「は⁈お前、それですみれ帰ったの?
お前、してやんなかったの⁈」
「だから、なんなんだよ⁈
兄キだってしてねぇだろ!
んな、こっぱずかしいことできるか!
だいたい兄キは…◎▼◇☆…‼︎」
「おい…裕也…。」
やべ…
兄キがあの黒い笑みを浮かべていた。
「お前さぁ…兄キに言っていいことと
悪いことがあんだろーが‼︎轢くぞ‼︎」
「……。」
実際轢くわけではないのに、
こうなった兄キには逆らえない。
「お前、すみれに
”壁ドンして”って言われたんだろ?」
「…だから、なんだよ。」
「お前、埋めるぞっ!
せっかく親切に言ってやってんのに。」
はぁっ…と兄キはため息をついた。
「オレ、さっき壁ドンやめた時、
すみれになんて言った?」
「は⁈んなの…」
さっき…兄キが壁ドンしなくて…
”そういうことはちゃんと
好きな奴に頼むんだな”
…⁈
「思い出したかよ?」
オレのハッとした顔を見たからか、
兄キが呆れたように聞いてきた。
「オレ、ちょっと出掛ける…。」
「おう。」
兄キはソファに座って、
さっき録画してた
アイドル特番を見始めた。
「兄キ!サンキュー!」
オレは兄キに礼を言って、
そのまま家を飛び出した。
「世話が焼ける弟だな…」
兄キが呟いたことばは
オレには聞こえていなかった。