第11章 -夜空-(今吉翔一)
そろそろ寒くなってきたし…
ワシは岡本くんに呼びかけた。
「あ?なんや、自分?」
岡本くんは、明らかに敵意むき出しで、
ワシを睨んできた。
こいつもわかりやすいやっちゃなぁ。
「なぁ、手ぇ繋いどんの見えへん?」
ワシはすみれの手を握ったまま、
手を上にあげた。
「…っ⁈何が言いたいねん‼︎」
ククッ…。ムキになっとるなぁ。
「翔ちゃん…⁇どうしたの⁇」
「見てわからへん?
岡本くんの
入る余地はないっちゅーことや。」
ワシはそのまますみれを抱きしめた。
「翔ちゃん⁈」
「な…っ⁈」
「はぁ。わからん奴やの。」
テンパるすみれを尻目に、
ワシはさらに強くすみれを抱きしめ、
すみれ越しにジーッと岡本くんを睨む。
「お邪魔虫言うてんのや‼︎
すみれはワシのもんやから、
手ぇ出さんときや⁈」
それだけ言うと、岡本くんはほぉって、
ワシはすみれの手を引いて、
商店街を抜けた。
「ちょっ…翔ちゃん‼︎」
すみれに呼ばれているのは
わかっていたが、
ワシは返事をせんと、
すみれの手を引いたまま
グングン歩いた。
「翔ちゃん、急にどうしたの?
翔ちゃんほったらかして、
岡本くんと話しちゃったのは
悪かったって思うけど…。
あ…あの、あんな…。」
「月…今でも見とったんか?」
すみれの質問には答えず、
ワシはすみれに質問をした。
「うん。翔ちゃんはもう見てないの?」
「…どやろな?」
見てないわけがない。
バスケはしたかったが、
すみれと離れるんは嫌やった。
ある意味自分自身に
言い聞かせることばでもあった。
「翔ちゃんが言ってくれたのに…。」
シュンとしたまますみれが続ける。
「”離れた所にいても、月は1つだから、
同じ月を見れる”って。」
どこぞの歌の歌詞みたいで、
我ながらクサイが、
その歌が世に出る前から、
ずっと思っとった。
だから、パクりやない。
「だから…夜になるの楽しみで…
いつも月を探してたのに…。」
「アホか。ワシが言うたんやで?
忘れるわけあるか。」
ワシは立ち止まって、振り返り、
すみれを抱き締めた。
「…っ⁈」