第9章 -安心-(木吉鉄平)＊

(へぇ…案外わかりやすいのな。)
「いいよな、あいつ。
料理うまいしスポドリもうまかったし、
なんたって巨乳だしな。」


青峰のことばに動揺したのだろう。
すみれが後ろで滑って態勢を崩していた。

オレはそっと手を差し伸べた。
すみれがオレの手を
握り返したのがわかった。


「なに慌ててんだよ？
…♪あとさ…
あいつの唇…柔らかかったぜ？
知ってた？」


バチャンッ。


すみれっ⁈


すみれは思わず振り向こうとしたらしく、
湯船のはねる音がしてしまった。


思わず体を動かし、
水面を揺らしてごまかしたが、
青峰の挑発的なことばと視線に
オレは声が出なかった。


オレの後ろですみれが固まっている…


「ん？なんかいるのか？」


「いや…。」


「ま、いーけど。
あんた、あの時見てただろ？
あんたたちがもうちょい遅ければ、
もっといいトコまでいけたのにな。」


「変なこと言うな！」


オレは青峰を睨みつけるだけで
精一杯だった。


「ククッ。
別に変なことじゃねぇよ。
明日あいつに聞いてみろよ。
はぁ…あっちぃなぁ。じゃあな。」


そう言うと青峰は、
温泉からあがって出て行った。


すみれは…やっぱり青峰と…。


オレはしばらくその場から動けず、
呆然として固まっていた。


青峰のことばが頭から離れない。


「…よし…くん…」


すみれの呼ぶ声にハッとして振り向いた。


「おいっ！すみれっ⁇」



顔色が悪く、息も荒い。
よく考えたら、
オレよりも先に入っていたのだ。
恐らくのぼせたのだろう。


「すみれ⁈大丈夫か？」


「……て……なぃ…」


「すみれっ‼︎」


すみれはそのままぐったりして
オレにもたれかかってきた。


「すみれっ！おいっ！すみれっ！」


呼びかけても返事をしない。


とりあえず出なきゃ…
と、思ってハッとした。


オレもすみれも裸だ。
だが、このままじゃすみれが…。


今は裸とか…それどころじゃない。


オレはすみれ髪をまとめていた
タオルをほどき、
すみれの身体にかけて、
なるべく身体を見ないようにして
すみれを抱き上げ、脱衣所に向かった。