第9章 -安心-(木吉鉄平)*
「ふぁ〜ぁっ。」
男のでかいあくびする声が聞こえた。
オレたちは思わず目を合わせ、
オレは立ち上がるのをやめ、
すみれを隠すように座り直した。
「すみれ…少しそこにいろな。」
オレが小声ですみれに話しかけると、
すみれは小さく頷いた。
足音がこっちに近づいてくる。
「ん?なんだ、あんたかよ。」
「青峰⁈」
入ってきたのは、
よりにもよって青峰だった。
オレと岩で、
すみれは見えていないはずだが、
それでも緊張が止まらない。
ザプンッ…。
遠慮なく勢いをつけて、
青峰は温泉につかった。
「こんな時間に風呂か?」
「あ⁈関係ねーだろ?
つか、自分だって入ってんじゃねーか。
そっくりそのまま返すぜ?」
「ん?まぁ、なんだ…眠れなくてな。」
「は⁈」
(なんでほんとに答えんだよ?)
「色々と思うことがあってな。
お前は…練習あんま出ないのか?」
「は⁈なんだよ、急に。」
「いや、お前はいつもそうだって
さっき今吉に聞いたからな。」
「いいんだよ、オレは。
そういう条件で入ったし、
練習したらうまくなっちまう。」
「練習出ないであんなに上手いんじゃ、
こっちはたまったもんじゃないな。
でも、やっぱりお前のいる桐皇とは
またやりたいな。うん。
次が楽しみだ。」
他愛ない話でごまかすが、
言ってることは本心だ。
青峰といるとさっきのことを
つい聞きたくなるが、
今はそれどころじゃない。
なんとかして、
青峰に先に出てもらわないと…。
それに…
風呂の中で不安定だからか、
たまに背中にすみれの身体が触れる。
その度にオレは
そっちに気を取られてしまっていた。
「はぁ…。
紫原の気持ちがちょっとわかるわ。」
「ん?なんのことだ?」
「あんた…やっぱ、
人の良さそうな顔して
実は意外としたたかだよな。
今吉サンとは違った意味で怖いぜ。」
「ん?」
そういえば、似たようなこと、
日向にも言われたことあったなぁ。
「なぁ?あんたはどう思ってんだよ?」
「なにをだ?」
「檜原すみれ。」
「な…っ⁈」
後ろにいるすみれも
一緒に反応したのがわかった。