第9章 -安心-(木吉鉄平)*
「悪い。待たせたな。」
「ううん。大丈夫だよ。
今日もお疲れさま。」
すみれはオレを見上げて
ニコッとして言ってくれた。
すみれは決して小さいほうではないが、
それでもオレと並ぶと小さく見える。
オレはだいたい
『デカすぎて見上げるのが大変』
と言われるのだが、すみれだけは違った。
『大きいからいい』のだそうだ。
よくわからないから聞き返したのだが、
何度聞いてもすみれの言う意味は
わからないままだった。
「合宿楽しみだね。
あ、でも木吉くんたちは
練習で行くんだから大変だよね。」
「そうだな。
でも、大変だって気持ちより、
楽しみだって気持ちのほうが強いな。」
「桐皇と一緒だから?」
「あぁ。それもあるな。」
「他には?」
「そりゃ、
やっぱりすみれがいるからだろ?」
「えっ⁇」
「学校以外ですみれと会えるのも
なんか新鮮だしな。
それに、普段は練習はあまり
見てもらえないし、
いいトコ見せなきゃだなぁ。」
(ドキン…っ。)
「うん。木吉くんのいいトコ、
たくさん見たいな。頑張ってね。」
うん。
やっぱりすみれも行くと思うと
やる気が出るな。
「あぁ。
そういえば、すみれ…?」
「なぁに?」
「サッカー部のマネージャー…
やるのか?」
「や、やらないよ。
なんで、頼まれたこと知ってるの…?」
「さっきコガが言っててな。
そうか。やらないのか…。」
「うん。家庭科部あるし…
サッカーより…バスケが好きだし。」
「そうか。
すみれはバスケが好きか。」
「うん!
まぁ、わたしは運動オンチだけど…。
木吉くんみたいにダンクとかできたら、
すごい気持ちいいんだろうなぁ。」
「ははっ。
すみれがダンクしたらビックリだな。」
そんな他愛ない話をしていると、
あっというまに
すみれの家の前に着いた。
「じゃ、合宿、よろしくな。」
オレはすみれの頭をポンポンとする。
「うん!
あ、木吉くんはムリしすぎないでね。」
「あぁ。ありがとうな。」
オレはまたすみれの頭を撫で、
すみれが家に入るのを見届けてから、
オレも帰った。