第5章 さよならの直前:マスルール
セリシアSIDE
マスルールさんは、最後まで船を見ているようだった。
いや、隣にいたジャーファルさんがそうするように言ったのかな。
なんでもいい。
とにかく、見えるギリギリまで見てくれるのは嬉しいことだった。
「・・・行こう。」
私の視力では、いや、きっと普通の人ならばもう姿を認識できない距離になった。
それだけ、シンドリアと船の距離はすでにある。
マスルールさんの姿も、もう見えない。
船内に引っ込もうと思った。
けれど、少し後ろ髪を引っ張られる思いだった。
いつだったか、ずいぶん前にマスルールさんは言ってたんだよね。
ふぁなりすっていう人種は、動体視力と五感だとかがかなり優れてるって。
もしかしたら、彼はまだ見えてるのかな。
「・・・さよなら。」
聞こえるはずのないつぶやき。
ここでさえ、他に聞き取られてはいないだろう。
もう前を見よう。
これで、お別れだ。