第2章 芍薬の蜜/銀時
坂田銀時。
この店の常連客で、ある日を境に私を口説くようになった三枚目の侍だ。
『追い返して』
低い声でボーイに告げる。
「え?い、いや……でも」
『いいから!早く!』
圧をかけられた新人の黒服は戸惑いながらも急ぎ足に去って行った。
私は土方さんに悟られぬようにと、横目でその様子を盗み見る。
着崩した派手な着物。
奇抜な白髪の天然パーマ。
相変わらずふざけた出で立ちだ。
「あァ?来たばっかの客に帰れってどうゆう事だコノヤロー」
横柄な態度で凄む坂田。
その気迫に押され負けたのか、
はたまた元来ヘタレなのか。
役に立たないボーイは坂田に押し切られて奴をフロアに通してしまう。
『……っ』
私は思わず舌を打った。
せっかく土方さんに会えたのに、奴が入店したら全てが台無しになってしまう。