第6章 初めて歩く二人の距離
抱き締められた余韻が全身に甘い疼きを残ったまま、更衣室から出た私は、靴を履くべく下を向いた。
「___え」
す、と視界に入ってきた長い指先。
その主へと視線を向けると目を細め、柔らかな笑顔を見せる悠がいて。
悠「………お手をどうぞ。……お姫様?」
「____っ///!!」
手をのべる姿はとても優雅で、まさに王子様そのもののように美しく、私は眼を逸らすことすら出来ない。
バクバクと最高潮に速まる鼓動が全身に響く。
「………あ、ありがとう///」
真っ赤に染めた顔を俯かせては挙動不審な私。
すると、頭上からフッ、と笑う声が聞こえてきて、ちらりと上を見上げると、可愛い、と言われてしまい、さらに顔を赤くする始末になった。
………もう、本当に悠といると心臓が休まらないよ~!
手を引かれながら心の中は落ち着く気配すらなく、様々な想いが錯綜していて。
もう少し私に恋愛に対する耐性があれば、きっとスマートに対応出来るのに、いつも恥ずかしさとドキドキで下を向くばかりになってしまう。
他の女の子たちってどうしてるのかな、なんて思ってバイト仲間の菜奈や亜樹奈とかにも相談したけど、何だか二人の考え方が凄すぎて(?)玉砕する結果になっただけだった。
………今も手を繋ぐ先では、柔らかな笑みを湛えたまま、とても自然な動作でレジで支払いを済ませる悠の姿がそこにあって。
「あの、本当に悪いから……自分で__」
悠「シーっ………俺が花音にカッコいいところ見せたいだけだから………それ以上言ったらダメだよ。」
_____////!!!
長く整った悠が私の唇に当てられ、ドキリと跳ねる心臓。
な、な、ななな何この状況///!?
漫画とかであるやつだよね?!
レジの店員さんまで見惚れてるし………!
突然のことに反応にすら出来ず、黙りこむ私の頭をポンポンと撫でる悠。そしてやはり私は何も気の利いたことも言えずに顔を赤に染めただけだった。
お店を出ると、にっこり笑顔の悠がそっと私の耳元に唇を寄せてくる
悠「……今日、俺のためにお洒落してきてくれたから……可愛い花音にご褒美、ね?」