第72章 強くなりたくて……〈岩泉一〉
それから近くのベンチに少し座って待っていると。
一「ほら。」
一が自販機からスポーツドリンクを買ってきて渡してきた。
「…ありがと。」
私はそれをひとつ口飲んだ。
一「お前さ……飯もあんま食わなくなったろ。」
一には本当何でも見抜かれていて、怖いと思った。
「…だって体重落としないと、早く動けないし…。」
私は嘘をついても無駄だと思って正直に答える。
一「はぁ……そんなんだから、倒れそうになるんだぞ!?」
「…だって……。」
一「…無理して頑張っても試合で、そんなんじゃ意味ねぇーだろ?」
「……。」
私は言い返せず黙った。
一「俺が思うに、朱鳥は気持ちが焦って負けちまうんじゃねーの?…もう少しで勝てると思ったり、相手と差がついて気持ちに余裕がなくなってると思うんだわ。」
「気持ちに余裕…。」
それは私が考えなかったことで、私はうつ向いた顔を一の、方に向けた。
一「もっと余裕を持って、落ち着いて試合に立ち向かえば、朱鳥なら勝てるだろ?じゃなきゃ部員数が多いバド部で試合に出ることすらできないだろ?」
「…そう……なのかな……。」
一「そうだろ?……だからあんま無理するなよ。」
一は私の頭を少し乱暴に撫でた。
「……うん…ありがと……ごめんね…。」
一「何で謝るんだよ…ほら、帰るぞ。」
「うん……!」