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蟲師 夢現

第1章 想い袋 朝焼け



「あった、これだ。凛子、首を少し触る、くすぐったいかもしれないが耐えてくれ」
「うん……」


 今度は首筋に指先を滑らせ、再び脈を図り始める。――やはり、彼女の体は……。ギンコは次に注射器を取り出し、強い眼差しで纏を見つめる。


「凛子、今から俺がいうことをしっかりと聞いてくれ」
「わかったわ」
「お前さんの体は、度重なる蟲師たちによる治療薬の副作用で不整脈を起こしている。免疫力も、著しく低下していることが見受けられ、このままだと命に関わる。もう、その者達からもらった薬は口にするな。まだ、しているんだろう?」
「……何故?」
「なんでわかったのか? それは、お前から異様なほどに甘い香りがしていたからだ。それに混じって、苦い薬草の香りがした。まるで、お前さんの放つ香りを打ち消さんとするかのように。お前さんに何故そんな香りが纏わりついているのか、それはわからないが少なくともお前さんには害のないものだ」
「ああ、そうなの? 他の蟲師は、この香りが原因なのでは、とばかり」
「俺も最初はそう思った。だが、そうではないような……気がするんだ。これは、俺の勘だから信じなくてもいいが」
「いや、信じるよ」
「そこで、薬の副作用が続けばお前さんの心臓が止まる可能性がある。よくなる薬を、投薬するから痛いかもしれん。いいか?」
「うん、わかった」


 ただ、大人しくそれに従う彼女に、ギンコは少しだけ心が痛んだ。普通なら、嫌がりもするだろう。けれど、心のない彼女には理解できないのかもしれない。恐怖さえも。

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