第1章 想い袋 朝焼け
「わかった。着替えてくる」
「ああ、そしたらちょいとお前さんに聞きたいことがいくつかある」
「そう……わかったわ」
凛子はゆったりとした足取りで、奥へと消えていく。
ギンコが疑問に思っていること……それは、何故年頃の娘が一人家にいるのか。親族は? 親代わりさえ誰もいないのか? そして、何故村の中でも離れにあたる場所に、いるのか。
全てを聞いていいものか悩んだが、元々とある目的でこの山中まで足を運んできた身としては、尋ねずにはいられないことだったのかもしれない。
「お待たせ」
「おう、まぁ時間ならそれなりにある。ゆっくり、世間話でもしようじゃないか」
「旅の人に会うの、久しぶり」
「そうか。旅人はこの村には、よく来るのかい?」
「……特に、蟲師、ってのが多い」
「へぇ……そりゃまた、どうして?」
「私の噂を聞きつけて、やってくる」
「ん……?」
ギンコの蟲煙草を吸う手が止まる。それは、まさしく自らが今回目的としていたことに、一致しているように思えたからだ。ギンコも、ある風の噂で聞いた話の調査をする為、この山中に入った。