第1章 想い袋 朝焼け
「へぇ……一人にしては、広い家だな」
「元々は四人家族の家だから、余計に広く思えるのかもしれないわ」
冷えたでしょう、と凛子は乾いた大きな布をふわりとギンコの頭から被せる。ギンコの頭一つ分くらいは低い背の纏の視線が、上を向いて捕える。ギンコはあまりの美しさに息を呑み込んだ。そして、改めて軽率な行動をとってしまったことに気付く。
両親がいない、一人、つまり年頃の娘と一夜をこの屋根の下で過ごすということ。
――こりゃ参ったな……迂闊だった。
時すでに遅し、暖かい囲炉裏の傍、二人は向かい合うように腰をかけた。
「使っていない部屋を、貸すわ。其処で、今日は休んでいくといい」
「それよりも、お前さん着替えた方がいいんじゃないか? 随分前から雨に打たれていたように思えたが……そのままだと、風邪を引くぞ」
「そうなのかい?」
「そうなのか……って、考えればすぐにわかることだろう」
凛子は、まるで自分が雨に濡れきってしまっていることも、冷えてしまっていることも、何も感じていないかのように振る舞っている。わざとか? とも思えたが、どうやらそうではないらしい。
「確かに、身は冷たい。気持ち悪いような、気もする」
「それみろ。奥の部屋で、着替えてきたらどうだ? 風邪を引かれちゃ、誰が看病せねばならんか」
ギンコは自らの体質を思い出す。長居は出来ない、となれば凛子がもし寝込んでしまった場合村の人に頼むほかないのだが……そうしようにも、疑問点が絶えずあった。