第4章 想い袋 白昼夢
「いや、うん、えっと……ああ。それとは違うもので、なんというか……なんていえばいいんだ?」
「とにかく、それではないってことね」
「……お、おう」
燻らせた煙が、室内を満たす。不思議な香りに、凛子はゆったりと酔いしれる。長年、幼い頃から両親と別離しこの村に一人で暮らし始めた。居心地はけしていいとは言えなかったが、生まれ育った村を嫌いにはなれなかった。
「私ね、ここが、好き、だった。嫌いでは、なかったの。村人が、どんな人であっても、私は何も感じない。だから、どうでもよかった」
生けた藍色の花を見つめる。蟲煙草の影響か、花からはあの日感じた甘い香りはしなかった。
「あの花は、確かに私から心を奪ったのだろう。けれど、それで、よかったのだと……思う。でなければ、私は姉を失った悲しみに、耐え切れなかったろうから」
「だが、失わなければお前さんが忌み嫌われることもなかったろうに」
「ううん……同じ。両親が、愛していたのは……姉だったから」
優秀な姉を、大事にする両親の姿。ぞんざいに扱われていたというわけでもないが、その逆もまたない。記憶の中の両親は……。