第4章 想い袋 白昼夢
「気持ち悪くなんてないさ。お世辞でも、なんでもない。少なくとも俺は、凛子と過ごす時間が好きになっていた」
「どうして……?」
「さあ。好き、だからじゃないか? 凛子のことが」
「えっ……」
「本人を好きになれなきゃ、その時間も好きにはなれんだろう。お前さんは、違うのか?」
「えっと……」
凛子の額に、嫌な汗が滲む。それが何故なのか、本人さえも理解していない。ギンコだけが、その理由に薄々気付き深い笑みを浮かべる。凛子はその様子に、どう反応していいのかわからず言葉に詰まる。
「凛子が思うように、選べばいい。時間なら、お前さんにならいくらでもあるだろう」
「好きって……」
「ん?」
「その、俗にいう、"恋"としてでは、ない、よね」
「え……?」
今度はギンコが額に汗を滲ませる番だった。自分の発言を、再び脳内で反芻させる。ギンコ自身はその意味の違いを理解した上で、発した言葉だったが確かに言われてみればその違いは言葉のどこにも含まれてはいない。
ギンコは紛らわせるように蟲煙草を口に加え、ふかし始めた。