第4章 想い袋 白昼夢
「私、姉が好きだった。だから、別に両親にたいして憎悪を抱いたことはたぶん、ない。その分、姉が愛してくれたから」
どこか、柔らかな表情を浮かべる凛子にギンコは目を奪われる。彼女が、本当に心から笑えた時、どんな顔をするのだろう? 思い浮かべては、無意識に口元が緩むギンコ。
「お前さんは、いい子だな」
「え?」
「普通なら、恨むだろう。そりゃあ。何故愛してくれなかったのかと、何故、姉だけなのかと。それさえも、光蝶の影響でわからなくなった可能性もあるがな」
「ああ……そうなんだ。そういうことも、あるのか」
「あいつらは感情という感情を根から奪う蟲だ。可能性はある……が、何がよかったかなんて今にしてみればわからないことだ。過去は二度とやり直せないからな」
「そうね」
凛子は立ち上がり、ギンコの傍へと歩み寄る。腰を下ろし、真っ直ぐ彼を見つめたかと思えば先程彼がしてくれたことに習うように、自らの小さな手をギンコの手の甲へと被せるように重ねた。そこから伝わる体温に、少なからずギンコは鼓動を早める。
さりげないことだ。けれど、触れ合うことで心は動かされていくもの。
「ねぇ、ギンコ。私、村の外を見て見たい。きっと、ここに居続けても私はこれからも同じように何も特別感じることもなく、過ぎて、いつか終わるだけなんだと、思う」
「ああ……」
「心って、温かい?」
「そうだな……面倒だとも感じることもあるが、悪くない」
「そう。知りたい……それで、ね? ギンコの笑顔、もっと……見たいの。これって、何かな?」
凛子の瞳の奥に、光を見た気がした。ギンコはやはりわざとらしく首を傾げ「さあ」とだけ答えた。