第4章 想い袋 白昼夢
自嘲気味に、ギンコは笑う。凛子にはつられて笑うことも出来ない。この人の笑顔を、何故だかもっと見たいと思えた。不思議で奇怪な、感情。
――ギンコに、もっと笑ってほしい。この人の笑顔をもっと見ていたい。なんで、かな?
凛子は首を傾げる。ギンコは先程とは違う、優しい微笑みを向ける。それだけで、何故か凛子の中には言い知れぬ安心感が生まれていく。人と関わることを極端に避け、一人でいることに慣れきった少女に。
ギンコと共に過ごした時間が、凛子の中で色を持ち始めていた。しかし、両者ともそれに気付くことはない。ギンコでさえ、気付かない。
「お前さんと過ごして気付いたんだが、人と関わり様々なことを体験、感じることでお前さんの心もまた一から思いを学び、集め始めているのかもしれない」
「そう、なんだ」
「たまにお前さんが笑ってくれると、それだけで俺は思うんだ。もっと、笑ってほしいなと」
「……同じだ」
「ん? 何がだ?」
「私も、今、同じことを、考えていた」
ギンコの瞳が、見開かれる。凛子の瞳に映る彼は、少し頬を朱に染め手で口元を抑えていた。気分でも悪くなったのか? と凛子は「どうした?」と声をかけると上擦ったような声で「い、いや」と答えるギンコ。赤みは、なかなか引くことはなかった。