第4章 想い袋 白昼夢
心がないことが不便なのか、取り戻さなくてはいけないのか、それさえ彼女にはわからなかった。考える思考がないのではなく、そう思う心がないために。ギンコは、凛子に断りを入れて小さなコップに水を入れ、花を生けた。何の気休めにもならないと、知りながら。
「凛子、それでも俺はお前の心を取り戻したいと願う。確かに、治療法……というものは存在しないが、まったく手に入らない代物でもない」
「別に、私困っていないわ。なくても、生きてはいけるもの」
――今までも、そうだったように。
村人から忌み嫌われる日々にも慣れた、食べ物にも今のところ困ってはいない。生かされている……ともいえる現状。けれど、凛子は満足していた。少なくとも、今は。昔のことをいくら思い出しても、悲しくならないのは心がないせいだ。でもそれでよかったと、思っているのだ。
あればきっと……その辛さに、失ったものの重さに、耐えられる気がしなかったから。
そっと、ギンコの暖かくて優しい大きな手が、凛子の手の甲に被さる。凛子は、瞼を開け再び色のない瞳で彼を見つめた。かける言葉もないままに。
「なあ、凛子。お前さんさえよければ、俺と旅をしないか?」
「旅……」
「野宿も多いだろうし、年頃の女子には辛いことの方が多いかもしれんが。今のまま、この村にいてもお前さんはこれからも変わらない日々も過ごしていくんだろう。心を、取り戻さないまま。きっと、ここにいるためにはそれが一番いいのかもしれない。だから、これは俺のわがままだ」
「どうして、そこまで私のことを考えて、くれるの?」
「……言っても、お前さんにはわからないかもしれないがな」