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蟲師 夢現

第4章 想い袋 白昼夢



 ギンコは顎に手を添え、唸りながら何やら考え始めた。凛子は、難しそうな顔をするギンコをただじっと眺めていた。


「母親からすれば、事件のショックでどこかおかしくなったんじゃないかと、心配したんじゃねぇか?」
「そうね。そう、父には言われたわ」
「まあ……あれだな。紗季って子は、どうなった?」
「……村長の家で、無残な亡骸になっていたらしいわ。母は、私より姉を大事にしていた節があるから……なんでお前なんだと、葬式の後に何度も言われたわ。何故出来のいい姉が死ななくてはいけなかったのかと」


 淡々と話す彼女からは、悲しみも寂しさも伺えない。ただ、在る事実だけを述べるのみだった。二人を挟んで揺れる囲炉裏の火が、怪しげにゆらゆら揺れていた。ギンコは目を伏せて、口を開いた。


「お前には、何の罪もない。ただ、不幸の巡り合わせでそうなっちまっただけだ。気にするな、
とまでは言わないが……自分のせいだと思う必要はないと思うぞ」
「そう思える心さえ、私は、ないのよ」


 ギンコはゆっくりと、立ち上がり、彼女の側へと腰をおろした。そして、そっと、親指の腹で凛子の目元を拭った。


「涙でも、零れていた?」
「いや。もしかしたら、泣いているかと思って。それだけだ」


 時間はゆったりと流れていく。何故、凛子が心を失ってしまったのか少しずつギンコの中でその原因が明らかになっていく。ただ、焦りは禁物だと自分の心に言い聞かせた。涙さえ流すことのない彼女の目元を拭ってみたのは、見えない涙が零れているのではないかと思ったからだった。
 凛子は、ギンコの行為にどんな表情も見せなかったが、伏し目がちになりどこか視線は泳いで見えた。

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