第4章 想い袋 白昼夢
雨の音が、ただこの場を包み込む。ギンコは、目を伏せ静かに凛子の言葉の終わりをじっと待っていた。彼の手は、ぎゅっと強く握り拳を作って震えていた。
「目が覚めた頃、真っ先に目に飛び込んできたのは、父の泣きじゃくる姿だった。母は、ずっと傍らで泣き続けていた。父は……程なくして私が眠っていた間の出来事を、教えてくれたわ。私を探しに来てくれた、村の人が、花畑で倒れている私を見つけてくれたの。そして、別の村人が血まみれの村長を見つけて、血相掻いて村の人たちに知らせたと言った。村長が……子供たちを浚って、食べていたそうよ」
「……人肉、か」
「そう。村長は、御老体だったから、あまり農業も出来なかったし、その頃丁度奥さんがなくなったせいで、余計食べ物を獲ることが出来なくなっていたそう。そこで、遊びに来た子供たちを殺して、肉にして、食べていたんだって。でも、村長はそれからすぐに死んだらしい」
「そりゃそうだろうな。人肉ってのは、食うと様々な症状を引き起こすと言われている。同種族である共食いは、脳機能に障害をもたらすとされている。原因は、不明だが……共食いの代償ではないか、とされている」
「狂ったように、死んだそうよ。でもね、その時から、その全てを聞かされても何も感じなかったの。何も思わなかったし、そう……としか。そしたらね、母が怒鳴ったの。どうして何も感じないのか、表情一つ変えないのか。お前は、心でもなくしたのかと……」
――喪失感は既になかった。ただ、朧げに何かが泡のように消えた気は、した。