第3章 想い袋 闇夜
次の日も、またその次の日も、村人の子供たちが相次いで姿を消した。その頃から、少しずつ凛子たちの周辺は悪い意味で変化を始めていた。
ある日、凛子が一人で森の奥にある村長の家までおつかいで訪れた時だった。
「村長さん、凛子です。あの、いますか?」
「ああ……凛子ちゃんか。こっちへおいで、さあおあがり」
柔らかい笑みを浮かべ、家の中へと通してくれる仕草に、何故か凛子はその時だけ違和感を覚えた。それはとても、言葉では言い表すことが出来ないもので、ただその感覚を凛子は警告音のように思えて固く両手を胸の前でぎゅっと握って、拒絶を示した。
「凛子ちゃん……?」
「あの、玄関先では、駄目ですか」
「どうかしたのかい? いつもは、遠慮せずあがっていってくれるじゃないか。菓子もあるよ」
「えっと、母さんから近頃子供が神隠しにあうから出来るだけ早く帰ってくるようにと、言われているから」
「大丈夫だよ。わしの家に、そんな神隠しの化け物は出やしないさ。さあ、おいでおいで」
村長の手が、ゆっくりと凛子の方へと伸ばされる。凛子は反射的に身を引いて、ずりずりと後ろへ後ずさった。その様子に、村長は目を丸くしたがすぐに瞳を細めた。
「村長さん、なんか今日……変」
「何がどう変なんだい? 教えておくれよ」
「え、わからない、わからないけど……変なの!」
「聞き分けのない子だね!!」
がっと腕を掴まれ、凛子は驚いておつかいで抱えていた野菜を地へとこぼした。強く掴まれた腕は、赤く跡がつくのではないかと思うほどに痛く、凛子は顔を歪めた。