第3章 想い袋 闇夜
「母さん……?」
「おいで、凛子」
部屋の奥へと、二人は入っていった。
母の部屋、物が基本的に少なく箪笥のみが置かれていた。母は、凛子にその場で座るように言うと二人して畳に腰を下ろした。
「母さんが今から聞くことに、正直に答えておくれ。それと、お説教じゃないから……怖がらなくていいんだよ」
「う、うん……」
それでも、凛子の小さな体は強張っていた。いつもとは違う母の落ち着いた雰囲気と、静かな空気に肌がちくりと刺されていく気がした。言葉とは裏腹に、凛子っている空気はどんよりと重い。
「昨日、隣の家の子と、遊んでいたかい?」
「ううん……遊んでない。昨日は、紗季と一緒に、二人だけで遊んだよ。本当よ、紗季に聞けばわかるわ」
「そう……信じて、いいのね」
「うん、本当よ。嘘、ついてないよ」
「うん、うん……ごめんね」
母は、優しく凛子を抱きしめた。その間も、繰り返し謝罪の言葉を口にしながら。幼い凛子には、何故そこまで母が謝っているのか理解できなかった。襖の隙間から、紗季の姿が見えた気がして凛子の瞳孔が揺らいで動いた。紗季と、目が合った。
しかし、すぐに紗季の姿は消えてしまい小さな足音が遠ざかる音を聞いた。凛子は、ただ黙って母が話してくれるのを待ち続けた。
その日は、人々の悲しみを誘うかのように雨が降り続けた。