第2章 想い袋 昼下がり
「なに?」
「何じゃない。凛子、この雨の中何処へ行く気だ」
「雨に、触れたくて」
「……また体を冷やすつもりか。頼むから、やめてくれ」
「どうして?」
「寝込んで辛いのは、お前さんなんだぞ。いいから、な?」
「……わかったわ」
危うくて、消えてしまいそうで。だから、恐ろしく思えたのだ。彼女のその、自らを省みない軽率な行動に。いつか、彼女は雨に融けて消えてしまうのではないかと思えるほどに。何故、彼女が雨に触れようとするのか……。
「凛子は、雨が好きなのか?」
「好きって、何?」
「あ――……えっと、そうか、わからない、んだよな」
「あ、ごめん」
「そうだな……何に例えたらいいのか。まぁ、いいか。雨を、嫌だと思ってはいないんだろう?」
「ん、たぶ……ん?」
「そうか」
凛子の視線が、未だ掴まれている腕を見つめている。離してはくれないものかと、待っているかのように。その視線に気付いたギンコは、目で離さないと合図を送る。
「ギンコ、意外と意地悪」
「これは意地悪じゃない。はあ……雨が降ってない時は、外に出て構わないから」
「どうして、雨が降ってる時は駄目なの?」
「雨に濡れると、体温が下がって風邪を引きやすくなるからだ」
「へぇ、そうなんだ」
雨の音が、だんだん強くなってくる。次第に凛子の抵抗も止み、自然とギンコは掴んでいた手を離す。二人で雨を眺めながら、ぽつり、纏が話し始める。