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蟲師 夢現

第2章 想い袋 昼下がり



 凛子の瞳が、表情を映さないままガラス玉のように徐にギンコの姿を映すだけだった。生きることは、生を食べることに等しい。誰もが一人では、生を貪ることも出来ず、他人という自分とは違う異なる個体の影響を受けながら、日々生きている。

 孤独で死ぬことも、珍しくはないという。しかし、孤独さえもわからない、心を失った凛子に一体、どう理解できるというのだろうか。それを哀れだと思ってしまうのには、とても、失礼なことだと思えた。

 ギンコは、薄暗い中、そっと彼女に手を差し伸べた。


「ギンコは、変な人ね」


 その手を取ると、二人は足早に下山始める。また、空に灰色の雲がかかって雨の匂いがした。足元が荒れてしまう前にと、固く繋いだ手を引いて、ギンコは彼女と共に村へと戻った。同時に、雨が降る。昨日と同じ、冷たい雨が。

 家屋に入れば、雨から逃れることに成功し、一息つく。


「いやぁ、ぎりぎりってところだったな。危うく雨に打たれるところだった」
「……」
「凛子?」


 ゆらり、彼女の体が外へ引き寄せられるかのように傾く。ギンコは思わず彼女の腕を掴み、それを制する。


「ギンコ……」
「なんだ?」
「私が、どうして心を失ったのか……その時の話、聞いてくれる?」
「……ああ」


 小さく、凛子は語り始めるのだった。

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