第2章 想い袋 昼下がり
「なぁ、凛子。森の中へは出かけたりしないのか?」
「しない。森の中へ入ろうとすると、足が竦むの」
「ほぉ……足が竦む、とな」
「理由は、わからないけど」
「そりゃ無意識に、いや……取り戻しつつある心が、お前さんの中にあるからだろう。だが、その思いもいずれ蟲に食われてまた失うのだろう」
「そうか。それは、残念、だね」
「そう思うか?」
「え?」
言われて初めて気付いた、とでも言いたげな様子の凛子。ギンコは、このまま村から離れるべきか、迷っていた。
「凛子は、今のままは心地いいか?」
「ん?」
「いや、人ともっと遊びたいとか、関わりたいとか。そういう欲求はないのか?」
「……よく、わからない」
「そこまでの感情は、ないということか」
だんだん、陽が沈み薄暗くなり始めた頃。二人は山頂へと上っていた。
「ギンコは、私を可哀想だと思う? 一人でいるなんて、気の毒だと思う?」
「いや、そういうわけじゃないが。それでも、一人はみな寂しいと思うものだ。人は一人では生きていけん。どんな環境下においても、少なからず人は誰かの助けを得て生きている。お前さんだって、そうなんじゃないのか?」