• テキストサイズ

蟲師 夢現

第2章 想い袋 昼下がり



「なぁ、凛子」
「ん?」
「お前さんは、一人で此処で暮らすのは恐ろしくないのか?」
「恐ろしい? どうして?」
「……そうか、恐ろしい、という感情さえお前さんにはわからないんだったな」
「一人でいることには、もう慣れた。随分長く、一人でいる。今更、どうとも思わない」
「またそれも、俺には恐ろしいことのように思えるがな」


 食事を終え、二人は縁側でお茶を啜っていた。凛子は息を吐いて、唇を動かした。


「いい天気」
「そうだな。どうだ、外へ散歩に出てみないか? 一人で閉じこもっているより、人と何処かへ出かけた方が、面白いことに遭遇するやもしれん」
「ギンコと、外へ?」
「ああ。嫌か?」
「……わからない。けど、外、行きたい、かも」
「なら決まりだな」


 鳥のさえずり、太陽の眩しさ。どれも、美しい自然の産物。外出用の装いに着替えた凛子が、先に外で待っていたギンコの方へと小走りで駆け寄る。


「ギンコ。いつまで、この村にいるの?」
「ん――……、そうだな。気が済むまで」
「そう」
「といっても、其処まで長居は出来ないがな」
「あ、そう」


 並んで歩き始める。二人の姿を目にした村の人々が、奇妙なものでも見る目で視線を向けている。凛子本人は気にしてない様子だが、ギンコには村の人々の方が奇妙に思えた。酷く怖い顔で、此方をじっと監視するかのように見つめている。もし、凛子に心があったなら、この境遇に耐えていけるのだろうか?

/ 39ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp