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蟲師 夢現

第2章 想い袋 昼下がり



「足りなければ、一応おかわりもあるから。遠慮は、しなくていい」
「お前さんもしっかりと食え。腕、細すぎるぞ。しっかり食わんと丈夫な体にはなれんぞ」
「美味しいものは、食べすぎると太るだけ」
「お前さんの場合はもっと太れ」
「ギンコが沢山食べるなら、もう少し食べてもいい」
「ほぉ……なら」


 ギンコは席につき、手を合わせる。すると、次々と食事を口に放り込み、きちんと咀嚼する。意外と豪快な食べっぷりに、凛子は目を丸くさせる。視線に気付いたのか、ギンコは凛子に視線を向ける。目が、合う。思わず凛子は声をかけた。


「美味しい?」
「あ、うん。上手い。これなら、いつ嫁に出ても問題ないな」
「ん……?」
「ん? あ、いや……なんでもないんだ。なんでも」


 言葉が過ぎた、とギンコは再び黙って咀嚼を続ける。凛子もそれに習って、黙々と食事を続ける。二人の間に、特別な会話はなかった。静かに、大人しく、ただ食事は続いた。暫くすると、ギンコは空になった茶碗を纏の方へ向けた。


「おかわり?」
「ああ、頼めるか?」
「うん」


 茶碗を手に取り、白米を新しくつぐ。穏やかに流れていく時間に、いつしか居心地のよささえ覚え始めて、ギンコは思わず笑みを零す。流れるように旅を続け、同じところに留まる事もしない彼にとって、それは不思議な感覚だった。

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