第1章 初めて喋った
「あちゃー…。」
入学式から3日。
私は体育館と校舎の渡り廊下から空を見上げていた。
あいにくの雨。
天気予報では降水確率40%だったので傘を持ってこなかった。
「ええええまじかよ結構降ってんじゃねーか!」
声がしたほうを見ると、坊主頭の背の高い男子が騒いでいた。
「傘持ってこなかったの?」
菅原さんが彼に声をかける。
「持ってくる訳ないじゃないですか!
40%っすよ!普通持ってこねーっすよ!」
…私と全く同じ事言ってる!!
しかも田中龍之介かよ…私、田中君ほど頭悪くないはずなんだけどな…。
でも同じ事考えてるってことは、脳の構造が同じなのかも。とほほ。
「じゃ、止むまで1人で待てば?」
「え、縁下!?お前まさか持ってきてんのか?」
「うん。ごめんね~。」
「裏切り者どもおおお!」
田中君以外のバレー部が皆帰ってしまい、私と田中君だけになった渡り廊下は静まり返った。
「ん……?
お前、女バレの…?」
私の存在に気付いた田中君が、私に声をかけた。
「うん、そう。宮口利歩だよ。
君は、田中龍之介君で合ってるよね?」
「おー。
ところで、宮口さんも傘ねーの?」
「そうなんだよね…あはは。」
「なんだー頭良いやつでも傘持ってこなかったりするんだな!」
なんというか頭の悪そうな返答だな…。
「田中君、雨止むまで待つの?」
「うーん、まぁそうかな。
あんまり止まなかったら走るか姉ちゃん呼ぶ。」
「…そっか。」
それって今お姉さん呼ぶのが一番良いと思うんだけど…。
でもあえてそんなこと言わない。
だって、私雨止むまで帰れないもん。
田中君が帰ったら1人になっちゃうけど、雨のせいで外は薄暗いから、1人で待つとか無理。
そんな私の心配など余所に、彼はしゃべり続けた。
「女バレどう?新入生!何人入った?」
「それがねー…期待ほど来てくれなくてね、ちょっと困ってる。
男バレは?」
「4人!ばかデカいのとか、ちびだけどすばしっこいのとか、で、なにより!
影山飛雄が入部したんだよ!」
「えぇっ!?北第の!?なんで烏野に…?」
「そういうばそれは聞いてなかったわ。」