イケメン王宮◆ユーリ×プリンセスの物語【R18あり】
第9章 虚勢
ユーリが森に入ってしばらくすると
自分が来た道の後ろから
誰かの気配がする。
ユーリは咄嗟に短剣を抜き
近くの木の影に身を潜める。
が、
その足音が近づき、木の影から覗くと
ユーリは驚きに目を丸くした。
「サラ様っ!?」
ユーリはその名を呼び
短剣を収め、駆け寄る。
もう二度と会う事のないはずだった
愛しい人が目の前にいる。
ユーリの鼓動がとくとくと速まった。
「ユーリ!良かった」
ほっとした様子で
サラもユーリに駆け寄る。
「どうしたの?」
「バルコニーからユーリの姿が見えて…
今日、様子がおかしかったから心配で…
思わず追いかけて…」
ユーリは驚いた。
感情を隠すことには自信がある
自分の変化に気付いた…気付いてくれたサラ。
(サラ様、どうしてこんなにも…)
「それに、“どうしたの”はユーリだよ。
こんな夜中に、こんな森の奥で」
「……そうだね」
ユーリは意表を突かれた顔をしたあと、
ふっと笑った。
「どこかへ行くの?」
サラは少し不安げにユーリの顔を覗き込む。
「……うん、そうだよ」
「そう…なんだ……
夜も遅いし、気をつけてね」
「うん、ありがとう」
「ユーリが居ないと不安だな。
いつ帰るの?」
(またそんな可愛い事を言って…)
ユーリの心が甘く締め上げられる。
「もう、帰らないよ」
なんでもない事のように
ユーリは笑った顔で答えた。
「え?」
今まで見せた事が無いほど驚いた様子で
サラは言葉を詰まらせた。
(そう、もう帰らないんだサラ様。
だから、これ以上困らせないで)
木々の騒めきが
一際大きく聞こえ、
また雲が月を隠した。
闇が広がる……。