第14章 それぞれの理由
「あ、これ差し上げます!」
「ん?」
「実は、シャイニングさんからいつかこの企画の参加者の中から、気になった人に渡せと言われていた代物なのですが」
「何かの鍵?」
「どこかのブランドの、特注品ドレスだと伺っていますがそれ以上は何も……」
「いつ使うものなんだろう」
「たぶん、コンテスト当日に着るドレスのことだと思います。そのカギがあれば、そこのブランドのドレスを着る権利が与えられるだとか」
「そんな凄そうなもの、貰っていいのかな」
「はいっ! 私は自分に何が出来るのか……わからないままこの、企画にスタッフとして参加しました。でもこの託された鍵を、一体どんなタイミングで誰に渡すのか。私は今、これを他の誰も出ない貴方に渡したいんです」
「理由を聞いても?」
七海さんは、少し間を置いてから意を決したように、真っ直ぐと答えてくれた。
「一生懸命努力する姿に、惹かれたからです。それを渡すことが、唯一私が貴方に出来ることですから」
七海さんは軽く会釈し「引き留めてすみません」と告げると、また楽譜を両手いっぱいに抱え走り去ってしまった。
どこかで誰かが、何かを思い自分に出来ることを探している。
「ドレスか……」
美風さんが日本にいる、それを知ったところで私から彼に会いにいくことなど出来やしないのに。
――帰ってきていることだけでも、教えてくれたらいいのに。
「星織さんっ、お電話がきてますよ!」
「え……?」
看護師さんに呼ばれ、私は病院内へと戻ることとなる。