第12章 Autumn編 C
「痛い目に遭いたくなければ、自分の口から美風さんに言ってもらえる? 棄権しますって。貴方のパートナーをやめますって」
「嫌です」
「言いなさい」
「嫌だって、言ってるでしょ」
「やめるって言えっ!!!」
彼女が叫んだと同時に、複数の人たちが私を地へと抑え込む。腕を後ろ手に縛りあげられ、苦痛で顔が歪む。抑え込まれた衝撃で、身体も少し痛い。
屈することは出来ない。それは、彼から離れることを意味する。
「目障りなの!! いい加減理解できないかなぁ!? あんたみたいな女っ」
「いっ……!」
「消えちゃえばいいのよ!!!」
「っ……!!」
身体を蹴られ、今まで経験したことのない痛みが襲う。胴体、足、肩、容赦なく蹴り上げられ抗議の声を上げることも出来ない。
「もっと痛い目に遭わないとわからない……?」
「やめっ……」
視界の中心で、銀色のナイフが揺れた。
壱原さんはここまでしないと気が済まないのか……そうまでして、私を……っ!?
身動きは取れない、逃げられない、避けることさえも……。
「あんたさえいなければ……っ!!!」
「……っ!!」
目を閉じた。彼女が鬼に見えた。この先を自らの瞳の奥に刻むことは、あまりにも恐ろしくて出来ない。
死ぬのかな? どうなるのかな?
なんでこうなっちゃったのかなぁ……。
金属が何か固いもので弾き飛ばされたような劈くような音が、耳鳴りのように不愉快に入り込む。ぎゅっと閉じていた瞼は、その異質な音の正体を知ろうと、ゆっくりと目を開けた。
ただ、心が深く、痛くなった。