第12章 Autumn編 C
「カミュさ……んっ」
「お前はいつも美風のために頑張るんだな」
「え……?」
「自分のことよりも、美風のため。そんなに美風が大事か? 自分のことよりも大事か?」
「えっ……と。どう、なんでしょう。でも、確かにわかることはあります」
「なんだ?」
「美風さんのことを考えると、胸の奥が温かくなります。知ってますか? 彼、他の人の前だとあまり表情を曝け出さないんですよ。あんなに優しく笑う人なのに、それを知る人がほとんどいないんです」
「美風はいつも無表情でいるような男だからな……」
「それでも私は知っています。あの人の笑顔を、優しい手の感触を。その、心を」
「心……か」
可笑しいことを言っているかもしれない、単なる思い上がりかもしれない。知ったかぶりかもしれない。
カミュさんの手が、後ろから伸びて私の手と重なる。
「愚民が、偉そうだな」
「そうですね。急にどうしたんですか? カミュさんらしくない……」
「俺らしさとはなんだ?」
「え?」
「お前が知っている俺は、本当の俺か? 俺の全てとは、お前の目に映るもののことか?」
右耳を支配する彼の声が、私の心を揺さぶる。
指が絡む、こんなにもこの人を近くで感じたのはある意味初めてかもしれない。
「天音……」
悲しそうな声が、いつまでも消えずに私の耳元に残った。